Lines & Agency
solo exhibition, planning - E.V.E Communications Group Co. Ltd.
@青山とみひろ 2018
Lines & Agency −糸の振舞い−
文 = 沢辺満智子(社会学博士、学習院大学客員研究員)、田中さお(アーティスト)
この空間には、一つの着物と、その着物の「あったかもしれない別の姿」が展示されている。
その着物を構成するものは、かつて自らの内に色を閉じ込めた無数の絹糸たちである。色を纏った絹糸たちは、一つ一つ、織機の中で規律的に並べられていく。そうした時間の積み重ねの中で、絹糸は線から面になり、私たちの身体を包む着物として生まれた。
ここで黒田恭章は、その着物が誕生するまでに抱いた時間を遡って、面を作り上げている絹糸たちの記憶を解放しようとする。
展示された黒田の作品たちを構成している絹糸は、着物に使用された染料、媒染剤とほぼ同じ原料を使って染色された。しかしながら、黒田の作品として現れた「あったかもしれない別の姿」は、彼らの双子でもあるはずの着物とは、その姿形を別にしている。双子の誕生へ寄せた私たちの予測は、裏切られる。
だが、黒田がもっとも意図したことは、そこにあるのだ。私たちの抱いていた予測が、いかに限定的でしかないのかと、問いかける。
一つの染料が潜めている世界は広く、自由だ。その世界を完全に捉え、コントロールすることなど出来ない。ただ私たちに許されたことは、蚕が吐いた白く無垢な絹糸に、その未知な世界で戯れた痕跡を記録させることであり、その記録を色として受け取ることである。であるならば、色を記録させた絹糸を一つ一つ並べ、織り上げることを通して築かれた面は、絹糸たちの記憶にある、未知の世界の見取り図にはなっているのかもしれない。
一つの着物と、その「あったかもしれない別の姿」たち。
異なる時間と名前を抱えたモノたちだが向かいあったとき、モノのなかに並んだ絹糸 たちは、つかの間、時間から解き放たれる。
色を纏った絹糸たちが、互いに働きかけ、探し合い、共通の記憶に向かって振舞い始める。
−それぞれの使用染料と媒染剤の組み合わせ
・紬
茜 × アルミ × 鉄(2回の媒染)
ログウッド × 鉄
コチニール × 鉄
・homograph
紬と全て同様
・h/o/m/o/g/r/a/p/h
紬で使用された染料と媒染剤の組み合わせを切り離し、新たな再編を行った。
茜 × 無媒染(無媒染とは媒染液を使用しない染料のみの色)
茜 × アルミ
ログウッド × 無媒染
ログウッド × アルミ
コチニール × 無媒染
コチニール × アルミ
homograph  
90 x 160cm
homograph
(detail)
h/o/m/o/g/r/a/p/h 1,2,3,4  
each 40 x 45cm
h/o/m/o/g/r/a/p/h 6,7,8  
each 22.5 x 22.5cm
h/o/m/o/g/r/a/p/h 5  
53 x 53cm